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これがサッカーだ、これが人生だ

 これがサッカーだ、これが人生だ

ここ2年ほど世界のサッカーシーンをリードしてきた2強が相次いで消えた。攻撃力が売り物のチームがこの大会をリードすると思っていた我々としては、はっきり言って残念だ。悲しい。
2チームの敗因はなんだろう。
フランスは3試合とも良く攻めていたし、「さすが」というようなチャンスメークもあった。でもそれは単発で、なによりも90分を通して、チームが一体となった美しいパスワークが消えていた。競り負け、ミスパス、コンビのズレ、落ち着かないボール。ポストをたたくシュートがあれほどあったのは、微妙なボディコントロールに狂いがあったからではないのか。
フランスは明らかにチーム全体がコンディション不良だった。おまけに「勝者のメンタリティー」が欠落していた。ジダン不在だけが理由ではない。大会前からの調整がうまくいかなかったとしか思えない。
W杯を勝ち抜くためには、チーム全体のフィジカルコンディションに裏付けられたファイティングスピリットが絶対に必要だ。体力的に問題を抱えた状態で最高の精神力、集中力を発揮できるはずがない(その点日本、韓国の両チームはいい準備をしている)。フランスにはこれがなかった。それしか言いようがない。
気候の問題?それはみんな一緒。慢心?多少はあったかもしれないが、それだけが問題ならセネガル戦で目が覚めるはず。あきらかに気持ちがひとつになっていなかった。
象徴的なシーンがあった。デンマーク戦の2失点目のシーンだ。トマソンが左からのグラウンダーのクロスをインサイドで流し込むのだが、ポジション取りの際、トマソンがデサイーのシャツを引っ張って倒してしまっている。明らかにトマソンのファウルだ。審判は見落としたのかゴールを認めた。このときフランスは誰一人として抗議していない。もう諦めの境地だったわけだ。
「俺たちはうまくいかないかもしれない」という気分は実はセネガル戦の前からチームに蔓延していたのではないか。3試合を通じて選手たちの表情は「なんか変だ」というものに見えてしょうがなかった。自信喪失状態だ。
原因はいろいろあるだろうが、僕は、チームの新陳代謝のなさに対する若手選手たちの不安感とベテラン選手のコンディショニングの失敗が原因ではないかと思っている。
簡単にいうと、ベテランと若手の信頼関係の崩壊だ。ジダンの存在だけがそれを払拭させるのだが、肝心な人が不在だから不安感は募る一方だ。これではW杯を戦うレベルにないと言われてもしかたがない。負けるべくして負けたフランスだった。

アルゼンチンの敗退は、どちらかというと頼りにしていたキーマンの不調が原因ではないだろうか。それはヴェロンとクレスポだ。ヴェロンには覇気がなかった。長短のパスとプレーエリアの広さが持ち味だが、左右に揺さぶる展開力に欠けた印象がある。クレスポは出場時間が少なく、コンディションの情報もないのでわからないが、予選でずっと使い続けていた彼を、バティが調子良さそうだからという理由だけではずすとは思えない。クレスポにも何らかのマイナスポイントがあったのではないか。とは言え、フランスに比べて負けるべくして負けたという感じはない。むしろ
死のグループに飲み込まれてしまったという印象だ。
前に書いたと思うけど、野球と同様に、サッカーも攻撃は水物という部分がある。イングランド、スェーデンという体が大きく、勤勉で集中力の高い欧州のDFがゴールにフタをしてしまった場合、いつでも点が取れるというわけにはいかないということだ。攻撃型のチームが陥りやすいパターンだ。
バティは涙を拭いながら「これがサッカーだ、これが人生だ」と言った。そして僕は先人の言葉を思い出す。「サッカーは強い者が勝つとは限らない。勝った者が強いのだ」。
自らゲームを支配し、90分攻撃を仕掛け、さまざまなパターンのゴールを決めることができるチームが大会の顔になってほしい。この2チームが去った今、ブラジルとスペインに期待がかかる(もちろんイングランドも応援しているけど)。でもこの2チーム守備の厳しさが足りないからな〜。

 

 

                  

 

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