恐るべし中田英寿
「よっしゃー!!」
追撃のロングシュートを決めた中田は確かにこう叫んでいた。
なんという男だ。ここまで我慢をしてきた甲斐があったというもんだ。
セリエA29節。残り6試合の中でもっとも厳しい試合をアウェー・トリノで戦うローマ。
殺気立つベンチ。ナーバスな審判。音が聞こえてくるようなぶつかり合い。トランス状態の客席。
この大一番に交代とはいえ出場し、追撃の30mショットを決め、ロスタイムに同点ゴールまでも引き出すとは。
それもプリンス・トッティとの交代でだ。
たとえ交代要員でも、今シーズンはローマに残って、チャンピオンの一員という勲章を取ることが重要ではないかと思っていたが。
こんな芸当をやるとは、恐るべし中田英寿。
試合は80分間、優勝を争う最大のライバル・ユベントスのものだった。
ローマはほとんど何もできなかった。バティは完全に沈黙。トッティは調子は良さそうだったが、周りと合わず。中盤の守備はスカスカで、3点目を取られていたらそこで試合は決まっていただろう。
カペッロは思い切ったことをしたもんだ。今まで、トッティと交代で、あんなに早く(後半14分)ピッチに足を踏み入れたことはなかったはずだ。チームの緊急事態に、監督がエースをあきらめてまで起用した男。つまり中田はジョーカーだったわけだ。並の信頼感ではあそこで使わないだろう。カペッロからの評価がかなり高いということを証明したことになる。
ベンチに下がっていくトッティの憮然とした表情がそのことを裏付けてくれる。
それにしても中田のシュート力・・・。モンテッラの同点ゴールは中田のシュートを弾ききれなかった相手GKのミスだが、そのミスを誘ったのも彼のシュートが回転をしていなくて、揺れていたからだ。おまけに113kmの時速がでていたのだから始末が悪い。
試合をあきらめない、積極的にシュートを打つ、何かが起こる可能性がある。そう信じてプレーをすることがどんなに大切か。
中田のプレーは我々日本人に重要なメッセージを送っているような気がした。
試合終了。2−2のドローはローマにとって勝利にも等しい。敵地デッレ・アルピの一隅に陣取ったロマニスタたちは狂ったように歓喜している。当然ベンチは蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。
偉大な仕事をやり遂げ、チームメイト(トッティも大喜びだった)からの手荒い祝福を受けながら、中田は何を思っているのだろう。相変わらず表面的には派手なポーズはないが、客席に手を振る仕草、ピッチを去るときの足取りが、彼の高揚した気分を雄弁に語っていたような気がする。
中田英寿はセリエAの歴史に確かに名前を刻んだ。
正直言って複雑な気分ではある。何せ僕はユベントスファンだから。これで、5試合を残して勝点差6。かなりローマが有利だ。でもまだなにが起きるか分からない。ここ2シーズンは、最終節に逆転で優勝が決まっている。
ユベントスに優勝してほしいのはやまやまだが、中田のチャンピオンも見たい。いやはや困ったものだ。つまりあと1ヶ月半とても楽しみだと言うことだ。外国人枠が突然、本当に突然撤廃されたという追い風もあり(ラツィオの会長が動いて早期実現になったらしい、ちょっと皮肉)、中田にはこれからもチャンスは来るだろう。
こんな重要な時期(世界が注目している)にチームからの信頼を勝ち取ってしまった。
年末の頃は、リーグ戦の最終局面で必ず必要とされるは思っていたけど、期待を大きく上回ってしまった。
そういえば、外国人枠がなくなったことで、中田のローマ残留の可能性もでてきたらしい。
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