この「雑文」で野球を話題にするのは、考えてみれば初めての事だ。
今回は、あまり記録には残っていないが、忘れる事のできない選手、元近鉄バファローズ/
ダイエー・ホークスの山本和範について書いてみたい。
山本は'77年近鉄バッファローズに入団、5年後の'82年には自由契約(要は解雇)となり、
1年間バッティングセンターで働きながら、翌'83年、南海ホークスにテスト入団、'95年まで
福岡ダイエー・ホークスに在籍し、'96年、古巣である近鉄バッファローズに再度テスト入団、
'99年、42歳まで現役を続けた。この山本の苦労話、野球ファンならご存知の方も多いと思う。
ダイエー時代もイチローに続き、打率2位となるなど勝負強さも際立っていたが、ここでは
'96年近鉄時代の忘れられないホームラン2本について書く。
忘れられないと云いつつ、1本目については記憶がかなり曖昧なのだが、'96年の確か開幕第1戦目か
2戦目だったと思う。対西武ライオンズ戦で場所は西武球場だったと記憶している。
週末、部屋の掃除をしながら、このデイゲームを見ていた。正確には音だけ聞いている事のほうが
多かったのだけど。
山本はこの当時、DH(*註1)
若しくは代打で起用されていたと思うのだが、とにかく、山本の
打席になった。
この年から近鉄に移籍したばかりで、背番号も選手としては大きな「92」を着けていた。
中継のアナウンサーがこの背番号についてコメントを挟む。
「この山本の92という背番号ですが、水島新二さんのマンガに登場する
"あぶさん"(*註2)を超えたい、
という事で92という番号を着けているそうです。」
おぉ何と泣かせる理由ではないか。2度の解雇の危機を乗り越えてもなお、打席に立つ山本に
感情移入しているところに、このネタだ。
そして山本はこの打席、ライトスタンドに見事なホームランを放つ。
泣いた。何故か泣けるホームランだった。
この山本、顔は決してカッコよくないのだが(実際、ななりコワ面)、バッティングフォーム、
ホームランの打球、打った後のバットの放り方が非常に美しい。
ホームランの打球の美しさでは、個人的には、スワローズの杉浦(*注3)、
同じくスワローズの秦(*注4)と比肩する打球だと思っている。
やはり左打者がライトスタンドに放つ打球は美しい。
2本目のホームランはこの年、福岡ドームで行われたオールスター・ゲーム第1戦だ。
山本はこの年、初めてファン投票による選出でオールスターに出場した。
この第1戦は、1回裏、イチローの先頭打者初球ホームラン、日本ハムのブリトーの2ランホームランが
飛び出し、パ・リーグが逃げれば、6回表、セ・リーグの打線も繋がり、同点に追いつくなど
見応えのある試合だった。
回は6回裏、セ・リーグが同点に追いついた直後、それまでの2イニング好調だった阪神の薮が
パ・リーグ打線に捕まり4対3と勝ち越しを許す。なおも走者一、三塁。
次打者は、地元福岡ダイエーの小久保だったが、パ・リーグの仰木監督が打者交代を告げる声が
テレビにの音声にも入る。
「バッター山本。」
おっとり刀という感じで山本がベンチから出た。福岡ドームは大歓声に包まれる。
何度か素振りをし、少し身体をほぐしてから左打席に向かう。
実況アナウンサーは苦労人・山本のここまでの経緯、初のファン投票選出であること、
昨年までここ福岡ドームが山本のホームグラウンドであり、ここでの代打起用は仰木監督の
粋なはからいではないか、といったことを告げた。
山本はピッチャー薮に正対、少し待ってくれと制し、足場を固める。
プレイ再開、薮が初球ストレートを投じた。
行った。
右足をポンと上げるフォームから、いつもの様に美しい軌跡を残して、
福岡ドームのライトスタンドに打球が吸い込まれる。
一塁前で渾身のガッツポーズ、ベースを周りながら、2度3度と腕を突き上げる山本。
一塁を守っているスワローズのオマリーの「まったく信じられないヤツだぜ。」というような笑顔が映る。
一塁側ダッグアウトが映ると、イチローが「スゲェ..」と口走っているのが見える。
三塁ベースを周って、まだ背番号66番を着けている近鉄の中村紀洋とハイタッチを交わす。
セ・リーグの反撃ムードを打ち砕く3ランホームランとなった。
山本はMVPを獲得し、ヒーローインタビューに臨む。
「このホームランはファンの皆さんが打たせてくれたホームラン。最高です。チョベリグですよ。」
と当時女子高生の間で流行していた(おそらくこの時点では、もう女子高生は使っていないと思うが)
「チョベリグ」で喜びを表した。このちょっとお寒いコメントも山本らしい。
'99年惜しくも山本は引退してしまうが、最終戦となる福岡ダイエー戦ではプロ最終打席、
通算1400本目となるヒットを、通算175号となるホームランで飾っている。
最後の最後まで勝負強かった打者である。
実は手許に保管している山本のホームランシーンはこの'96年のオールスターだけだ。
今でも、山本の打球を見たくなった時、このシーンを見る事にしている。
【通算成績】
所属球団:近鉄バッファローズ->南海ホークス->福岡ダイエー・ホークス->近鉄バッファローズ
出場試合:1618試合
安打数 :4949打数 1400安打
生涯打率:0.283
打点 :669打点
本塁打 :175本