Last update 2003/03/18.

車雑記:イチマルロクの遺伝子。

もう老舗の自動車雑誌に「NAIV」というのがある。ここをお読みの大抵の方はご存知のはず。
その「NAVI」誌で長く続いている企画に「ダイナミック・セフティー・テスト」(D.S.T)という ものがある。ライターやドライバーの公道インプレッションとは別の基準でクルマのもつ特性を 積極的に明かして行こうという企画だ。
このテストを永らく担当しているドライバーに 清水和夫氏がいる。
清水氏は「NAVI」以外にも多くの雑誌で記事を書かれているが、私もとても好きなプロドライバー/ ジャーナリストの一人だ。
というのも、かなり前に氏のドライビングテクニック本を読んだり、「ベストモータリング」(ビデオ)などで 氏の走り方を見たりして、以来、氏の考え方に共感している。

もう随分前のことだが、1995年9月号の「NAVI」のD.S.Tでは我がプジョー106(XSi)も採り上げられた。
このテストでは通常、車格の一致する2台のクルマを揃えて行うが、106の対抗馬として採り上げられたのは、 先代のオペル・ヴィータ・スポーツであった。
テストの内容をご存知ない方のために説明すると、

1.旋回ブレーキテスト
0-150m区間を全開加速後、50R(半径50m)の半円を旋回しながらフルブレーキングを行う。
2.ダブルレーン・チェンジ
75kmで走行、目標物12m手前で急制動、目標物を回避し、また元のレーンに戻る。
3.ウエット旋回ブレーキング
50R(半径50m)の円周を保ちながら、水深8mmの水溜りに突入、目標パイロンからどれくらい ドリフトアウトするかをチェック。
と、これらのテストを行う。
106XSi このテストで、我が106はヴィータを常にクビ差でリードしていたが、特に印象的だったのはダブルレーン・チェンジ・テストだ。
これまでこのテストでは、急激なレーン変更でもリアタイアのグリップが破綻することなく、レーン変更できる、というのが 絶対的な評価軸であった。 そのため、急なレーンチェンジでリアのテールスライドなどを起こすクルマには辛い点が与えられるのが常だった。
106の特性として、リアのスタビリティがあまり高くない、というのは106オーナーならご理解いただけるはず。
このテスト、106には辛いはずである。
しかしである、以下、テスト担当者の宇佐元氏のコメントを引用させて頂く..

「DSTがスタートした当初、ダブル・レーン・チェンジ・テストにおいて重要なことはいかなる急操作に 対して微動だにしないリアのスタビリティを備えていることを絶対条件として評価していた。
〜(中略)〜
ところが、プジョーをテストするたびに、必ずしも不動のスタビリティが緊急回避性能のすべてではない、 と思うようになった。というのは、プジョーは障害物を回避し元のレーンに戻るために急加速しながら ステアリングを切り返したときに、比較的容易にテール・スライドを発生する。スタビリティ重視という 観点からすればこのテール・スライドは落第である。しかし、このテール・スライドがドライバーに スキルを要求することはまるでない。むしろ回頭性を助ける方向に作用し、プジョーの場合は、この テール・スライドによってプジョー独自の緊急回避性能を成り立たせているのではないかと思わせるほど 洗練された挙動とフィーリングが得られるからだ。
クルマの緊急回避性能はドライバーにスキルを求めるものであってはならないという、普遍的な価値観 からしてもこのプジョーの特性は大いに評価できる。
〜(中略)〜
テスト担当者が評価基準、価値観を新たに示したクルマは唯一プジョーだけ、といっても過言ではない。」

(二玄社「NAVI」1995年9月号より)

このリアの特性は106だけ、というわけではなくプジョー車に共通しているものの様だが、自分でも106SXiを購入後、 バックナンバーでこの記事を発見した時は自分のクルマをかなり誇らしく思ったものだ。
それから年月が経ち、もうプジョー106も旬のクルマではないという事でほとんどメディアに出る事もなくなってしまった。

話は少し変わるが、永らくテレビ朝日系列で放映されていた「カーグラフィックTV」が終了して久しい。
ところが聞くところによると、テレビ埼玉など、UHF系のローカル局で密かに(?)放送が再開されている、というのだ。
これは見たい!ところが私、長太郎は神奈川県在住の身。地元テレビ神奈川ではまだ「カーグラフィックTV」を放送していないので 見ることができず地団駄を踏んでいた。
ところが2、時代は変わっていた。ブロードバンド環境があれば、カーグラをネット上で視聴する事が可能というのだ。(有料だけど)
さっそく「Goo」の有料サイトに申し込み、久々「カーグラ」との対面となった。
コンテンツは4週間分見ることができ、毎週水曜日に新規のコンテンツが追加されていくらしい。
ちょうど「NAVI」誌の「D.S.T」を特集していたので、まずはそれから見た。久々に清水氏の勇姿(?)が見られる。
307 Front View

その回はライバル的なポジションのクルマ5組だった。そのうち、プジョー307XSもエントリーされている。 ライバルはアルファ147だ。
307と147、両車ともターゲットは似ているようで少し異なる。やはりフルブレーキングや、 旋回ウエットブレーキなど、スポーツ走行的な使い方では147にやや軍配、といったところだ。
そしてダブルレーン・チェンジテストになった。
307はやはり、プジョー車特有のテールスライドを発生したようだ。
307をドライブした清水氏のひとこと。
「やっぱり、イチマルロクのD.N.Aは持ってるよね..」
マジ?!メディア・プレイヤーを巻き戻して(実際は巻き戻してないんだけど、アナログ世代人間はついこう表現してしまう..) 確認した。「イチマルロクのD.N.A..イチマルロクの遺伝子..」、「プジョーのD.N.A」ではなく敢えて名指しで 「イチマルロクのD.N.A」なのだ。
これで確信した。D.S.Tのテスター諸氏の間ではタックインについて、「イチマルロク」はベンチマークの一つたり得ているのだ。
自分の「イチマルロク」への思い込みが裏付けされた様でとても嬉しかった。

清水氏のコメントを続けると、
「でも(106は)あの大きさだから、タックインしても楽しいけど、これ(307)はこの大きさで、タックイン しちゃったら、"僕どうしていいの?"って感じ。ただ滑り出しは穏やかだけどね。やっぱこのリアサスには イーエスピー(ティー?)要るよね。」
リアサスに必要な"イーエスピー"が何だか分からなかったが、もはやそんな事はどうでもよかった。
このたった数秒のコメントが聞けただけでも「カーグラ」のブロードバンド版を見た価値があった。
発売時は、「307なんて眼中なし」で、ぜんぜん気にしていなかったが、307のD.S.Tが載った「NAVI」を バンクナンバーを探し歩く日々である..


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